エッチスケッチサンドイッチ

亀の啓示として活動していた頃の絵や漫画、今描くラブラブなやつらのはなし。

本能とラブラブのおもむくままに。2

「お前、バカじゃねえの。」
美久はある程度覚悟はしていたものの
なぜ聡がそこまでいうのか
今一つわからなかった。

「そうよ、あたしはあなたに指一本
触れてもらえないバカな女なんだから
別れられてせいせいするじゃない?」

「お前は、浮気をしたんだぞ?」

聡は、別れる気がないらしかった。









「やめてよ!今日はそんなことしに
来たんじゃないわ!別れ話よ!」

美久はラブホテルに引っ張り込もうとする
聡の手に必死に抗った。

「そのクラスメートとかいう汚ならしい雄犬
とは寝たのかよ!」

美久は頭に血が昇った。
私のことは何て言ったって構わないけど。
圭一のことをけなすのは許せなかった。

「彼はあたしをやさしく抱いてくれたわ。
あなたが何一つしてくれなかったことを
彼はしてくれたし、囁いてくれたの!!」

聡はみるみる鬼の形相になった。
今までの美久を見下して侮辱している
表情とは違う。怒りや醜い嫉妬のようなものが
どうしようもなく噴き出している。
美久は、聡の笑った顔も思い出せないが
こんな表情も初めて見た。

「そいつ、呼べよ。お前がどんな女だか
教えてやる。そうすりゃ尻尾巻いて逃げ出すさ。」
「なにする気?」
「いつものお前をさ。見せてやるんだよ。」
「や、やめて!」
「淫乱極まりない玩具で際限なく
イキまくるお前を見せてやったらいいんだ。」
「いやあ!」

美久は聡の手をどうにか振りほどいて
逃げ出した。
ひどい。
聡は自分を玩具にしていたいがために
愛してもいないのに
縛りつけて離そうとしない。






「美久?」
森本圭一はもう、美久の彼氏だった。
学校では奔放に自分に迫ってくる。
我慢できない、と美久の胸を後ろから前から
さわり放題だった。
美久がさすがに恥ずかしいと圭一を叱ると
にやりとワルい笑いをみせる。
耳元で、後でな。と。すこし低い声で。

学校ではさまざまな物陰を研究していて
嬉しそうに報告してくれる。
連れていってくれる。
もちろん、抱いてくれる。

「美久。なんか元気ない。」

美久は、聡のことは絶対に秘密にしようと
決めていた。だけど、一人で抱えているのも
もう限界だった。
圭一はやさしい。
でも、自分がまだ、元カレと別れられていない
なんて知ったら。きっと怒る。
やさしくしてくれない圭一を想像すると
胸が張り裂けそうだった。

「なんでも、ないよ。」

「なんでもなくねえな。」

「放っといて!」

「放っとけねえ。」

「いや!きっとあなたは怒るわ!あたしを
捨てるに決まってる!」

「バカだろう?お前は!」





『バカじゃねえの?』
同じような台詞で美久は虐げられ続けてきた。

でも、冷たくない。痛くなかった。



「バカだよ、美久は!お前を苦しめてんの
何なんだ?そんなものからお前を護ってやる
のが彼氏なんじゃねぇのか?俺はお前の
彼氏として、認められてねえのかよ?」

「圭、ちゃん。」















圭一は美久から話を聞いて
どうしたものかと少し首を捻ったものの
「俺が会うよ」
と、事も無げに請け合った。
「美久はこなくて大丈夫。」
「そんなわけにはいかないわ!」
「だって。そいつは美久が自分のことで
苦しんだり辛そうにしてるの見てさ
ちんちんおっ勃ててコーフンしちゃうんだ。
お前がいたら逆効果だよ。」
美久には今一つピンと来ない話だった。
「そいつは自分に自信もないくせに
お前を支配したいんだよ。」









駅前のカフェでなんとか会う約束をした。
はじめ、聡は圭一と二人きりでは
会わないとごねた。
美久は用事があって遅れるかもしれないけど
絶対に行くから、先に男二人で話をしていて
欲しいと何とかその場を取り繕ったのだ。

聡には目印になるように
解析学のテキストを持ってもらうように伝えた。
彼は有名大学の理学部に籍を置く秀才だ。
そんなプライドをくすぐると機嫌がいい。
そんなプライドをくすぐられて上がった
ご機嫌は、ますます美久を蔑むのだが。
美久は頭は悪くない。
彼と同じ大学に行こうと思えば行ける学力は
あるのだが、そんなことをいって張り合っても
良いことはひとつもない。美久は賢い女だ。

かくして、二人の男が会うべくして会った。

「美久と別れてくれ。」
圭一は怯むでもなく卑屈になるでもなく
聡を真っ直ぐに見て言った。

「君はあれがどんな女だかわかってないよ。」
聡は圭一を見下す目をして平静を装う。
この男がこうしていないとろくに他人との
コミュニケーションも取れないのだと
圭一にはわかった。

「うふふ。とんでもなく可愛くてセクシーで
おねだりの回数は多いけど満足させてるぜ。」
圭一はわざと体の相性のよさを強調した。

「黙れ。」
聡のこめかみがひくひくと痙攣した。

「じゃあ、どんな女だったんだ?美久は。
あんたの前では、さ。」

「あの女は淫乱だ。求めてくるのは体の快感
ばかりで知性の欠片もない。」

「あいつ、学年でいつも10位以内の秀才だぜ?」

「ろくに料理も出来ない」

「あ、俺料理得意!」

「あいつの性欲は底無し沼だ!そんな淫乱女を」

「満足させるのが男の醍醐味じゃねえの?」

聡はテーブルを叩いて立ち上がった。

「ノー天気な男だな!確かにあの頭悪い女と
お似合いだ。ふん。」

「いや、だから美久は賢い女だってば。」

聡は必死で頭を巡らせているようだ。
どうすれば美久が愚かしい淫乱女として
自分の下にひれ伏すのか。

「あんた、美久が好きなんだろ。」

圭一は気の毒そうな顔までしている。
聡は切れ長の、普段半分しか開かない
目を全開に見開いて圭一を見た。

「あの淫乱女が、俺にすりよってくるから」

「もう、すりよってねえじゃん。」

「誰のせいだ!!」

「別れろよ。気持ちよく。」

「いやだ!!」

「なんでだよ。好きじゃねえんだろ?」

「そういう問題じゃない!」

「好きなんだよ。あんたはあいつを満足させる
自信がない。だから自分で抱かねえんだろ。」

「うるさい!!」




聡はとんでもなく早漏だった。
セックスに積極的で体での触れ合いが大好きな
素直に求めてくる美久が聡には怖かった。
この早漏さえなかったら。
美久を抱いて滅茶苦茶にして降参させてやる。
でも、自分には無理だ。
美久への愛情は初めから多少歪んでいたのだが
益々いびつになっていったのだ。


「あいつに素直に話してたら、もう少し
何とかなってたかもしんねえのに。あいつは
やさしくて賢い可愛い女だ。それなりの
セックスであんたに尽くしてくれただろうな。」
圭一は美久を思い出して、あの体の柔らかさや
程よく跳ねっ返りなどうしようもなく女で
もうちょっぴりママな物言いを反芻して
にやにやした。




「まっぴらだ。」
たまに許したフェラチオ
そんなことも薄々感じていた。
だが聡のプライドが許さなかったのだ。

「美久は、俺がもらうよ。」






男ふたりでカフェのテーブルに差し向かい。
聡はだんまりを決め込んだが
多分もう美久を苦しめたりしないだろうと
圭一は思った。
事も無げに聡と相対しているような圭一だったが
それなりに緊張もしていたのだろう。
美久が聡に目印代わりに持たせた
解析学のテキストを見て、やっと少し
緊張がとけた。

「そのテキスト、見せてもらっていいか?」

聡は鼻で笑う。

「絵本じゃねえぞ」

圭一はテキストを機嫌よく開くと
楽しそうに読み始めた。

「うわあ!おんもしれえ!これ、図書館に
あるかなあ。」

「何いってんだ?お前。」














聡はもう、やってられないと思った。
なんなんだ、あの野郎。
自分も今年取った講義で上級過ぎたと
もて余していた授業のテキストだった。
いかにも頭が悪そうなスケベ男が
なぜ、演習問題をすらすらさも楽しげに
解いたのだろうか。
なんだこいつ。

こんなやつとはかかわり合いになりたくない。

聡は頭でシャッターを閉めてしまった。









あれから美久には
聡からもう関係は解消する旨の文書が
メールで送られてきた。
もちろん、圭一が指示したことだ。

あれから聡からの連絡は途絶えた。







「圭ちゃん。聡には何て言ってくれたの?
あんなにすんなり別れてくれるとは
思わなかったもの!」

「いや。特にはなんにも。」

「乱暴なことされなかった?」

「ぜんぜん。」

美久は首をかしげるばかりだった。